エグゼクティブ対談#5
地域の食堂が、詐欺から街を守る「場所」になる
── 亀有・常盤仙食堂 店 主ご夫妻 × JUSA 南啓介 理事の対談
「こういう電話があったんだけど、どうすればいい?」
気軽に聞けるところが、街の中にある。それが大事なんです。
はじめに
東京・亀有。「こち亀」でおなじみのこの街に、創業76年の老舗大衆食堂「常盤仙食堂」がある。地域の人々が日々立ち寄り、ご飯を食べ、話をする。その温かな空間に、でんわんセンターのポスターが貼られた。
今回、一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会(JUSA)理事の南啓介が店主ご夫妻のもとを訪れ、特殊詐欺の現状と地域食堂の役割について、お話を伺いました。

写真左から
・齊藤篤氏 常盤仙食堂 ご主人
・南啓介氏 JUSA理事・広報部会長/株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ
・齊藤葉子氏 常盤仙食堂 奥様
「名古屋税関」に「還付金」──詐欺電話、毎週やってくる
南: 今日は率直にお聞きしたいんですが、お店の電話にも詐欺電話、かかってきますか?
店主(ご主人): かかってきますよ、ええ。なんかリストになってるんでしょうね。店の電話の名義がじいじ(先代)のものなので、老人が使っている電話だという認識で詐欺電話がかかってくるんだと思います。
店主(奥様): 週に2〜3回、多い時は4回くらい来ますね。時間帯は平日の昼間が多いです。夜はほとんど来ない。
南: 夜来ないのは、なるほど──役所を名乗っているとしたら、役所は夜やってないから。
店主(奥様): そうね!そこでバレちゃうから来ないんですね。(笑)納得しました。
店主(ご主人): 最近は100%機械音声ですよ。「名古屋税関から電話しております、1番を押してください」っていう感じで。
南: 1番を押したら人間が出てくる?
店主(ご主人): そうみたいですね、テレビでやってました。反応した人だけを拾うんでしょう。正直、どう答えるか聞いてみたい気持ちはある。(笑)
店主(奥様): 気になっちゃうよね!(笑)でもさ、前に家の固定電話が現役のころは、健康保険の還付金があるって電話が来て。緑色の封筒を送りましたよね、なんて言われても記憶がないから「何の話ですか」って言ったら、ナナナナナナって(笑)。あまりに怪しいから葛飾区に電話して確認したら「そんなのないです」って。
店主(ご主人): 一回切って確認したのはすごい対応だったよね。
店主(奥様): でも、一瞬「お金が戻ってくるかも!」って思っちゃったのは正直なところ(笑)。だから騙される人の気持ち、わからなくはないですよ。

12億円の被害、「数打ちゃ当たる」の恐怖
南: 最近のニュースで12億円騙し取られた案件がありましたよね。
店主(奥様): あれは驚きましたよ。12億円持ってるってこともすごいけど、振り込んじゃうっていうのもすごいよね。何度も振り込んで、その度に「ありがとう」って言われてたんでしょ。
店主(ご主人): 向こうは「数打ちゃ当たる」なんですよ。1回で12億入ったら、何百件かけても割に合う。
南: 被害額は増えているのに、検挙件数はそこまで増えていないんです。総務省や警察から情報共有を受けているんですが、手口が巧妙になっています。
店主(奥様): だから、こういうのってまず、怪しいと思ったら折り返すことが大事ですよね。区役所とか警察とか、かかってきた番号に折り返すんじゃなくて、正式な番号に自分でかけ直す。電話越しじゃ相手の顔が見えないから。

ポスターを見て「これ何?」──地域への浸透のヒント
南: 店内にポスターを貼っていただいていますが、お客さんから「これ何?」と聞かれたりしましたか?
店主(ご主人): それが……ないんです。ちょっと場所が悪いんじゃないかと思って。(笑)
店主(奥様): そう、もっと目立つところに貼らないとね。あと正直、このサイズ(A2)は大きすぎて、町内会の掲示板には貼りにくい。A4サイズくらいだと、町内会の掲示板でも貼ってもらいやすいと思います。いろんな行事の告知と並んで貼れるくらいの大きさで。
南: なるほど、そのサイズを持ってきたんですよ。
店主(奥様): あ、それだったら貼ってくれると思う!知り合いのお店でも貼ってくれるところがあるかもしれないから、何枚かもらっていいですか。
南: ぜひ、よろしくお願いします。
店主(ご主人): やっぱり被害が増えているからね。被害金額が増えている。何か手を打たないと。

でんわんセンターを知ったとき──「こんな相談先があったの!」
南: でんわんセンターって、最初に聞いたときどう思いましたか?
店主(奥様): 正直に言うと、「ここに電話すると国際電話が止まるんですか?」って聞いちゃいました(笑)。
南: 直接止めることはできないんですが、どこに連絡すれば止められるか、電話会社によって窓口が違ってわかりにくいので、そのご案内ができます。
店主(奥様): そういうことか。実はうちも家の固定電話は止めちゃったんですよ。詐欺電話とセールスのFAXしか来ないから。
店主(ご主人): 国際電話もかかってくるんですよ。友人はみんなLINEで連絡するから、国際電話がかかってくること自体がほぼ詐欺と思っていい。
南: それなら国際電話の着信を全部止める手続きができますよ。でんわんセンターに連絡いただければ、やり方をご案内します。
店主(ご主人): それは知らなかった。うちの親も固定電話しかないから、こういう電話がかかってきたときに相談する先がわからないって言ってたんです。
店主(奥様): そうなのよ。どこに電話すればいいか、パッと思いつかない。だから、でんわんセンターをもっと周知した方がいい。「とりあえずかけてみよう」って思えるところがあるって、すごく大事だから。

76年続く「地域の台所」が果たす役割
南: お店は創業何年になるんですか?
店主(ご主人): 今年で76年になります。3代目です。
南: すごい。亀有で76年。
店主(ご主人): 昔はすごく栄えていたんですよ、亀有って。日立やら三共(製薬)やら日本紙業やら、大きな工場がいくつもあって。その工場の社員さんたちが通勤で通る道沿いに、うちのような食堂があって。映画館が4〜5館もあって、遊郭もあって……。浅草みたいな土地だったそうです。
店主(奥様): 私がここに嫁いで来た30〜40年前も、まだにぎやかでしたよ。今より活気があって、ちょっとにぎやかな感じもあって。
店主(ご主人): でも工場がなくなり、パチンコ屋が映画館の跡地に入って、今はアリオになって。時代が変わりましたね。
南: お客さんの層も変わりましたか?
店主(ご主人): 変わりましたね、特にコロナ前後で。以前は一杯飲んで食事してという方が多かったけど、今は夜に飲むお客さんはほぼいなくなった。日曜日に家族連れで来てくれる方はいますけど、平日のお昼は常連さんが中心ですね。毎日のように来る方もいる。
店主(奥様): それで私、自分で会計しながら「何でこんなに安いんだろう」って思うんですよ(笑)。定食が700円台、単品は300円台。いろんなもの頼んでも大した金額にならなくて。
南: 私もびっくりしました。コンビニのお弁当買うより安かったです。
店主(奥様): そうなの。だから来てくれるんだと思う、常連さんが。

食堂があることの意味──「ここが地域のつながりの場」
南: お店って、そういう常連のお客さんとのつながりが深そうですね。
店主(ご主人): そうですね。詐欺に遭ったっていう話は、お客さん同士ではあまり出ないですよ。恥ずかしいって思う気持ちがあるから。でも、なんとなく心配になったときに「これって大丈夫かな」ってちらっと話せる場所ではあると思います。
店主(奥様): そうそう。日常の中で、ちょっと話せる場所。だからこそ、でんわんセンターみたいな存在を「こんなのあるよ」って自然に伝えられる場所でもあるんですよね、食堂って。
南: まさにそこなんです。役所や警察のポスターは、どうしても「お上からの注意」に見えてしまう。でも馴染みの食堂にあれば、身近な情報として受け取ってもらえる。
店主(奥様): そうだと思いますよ。「あそこの食堂に貼ってあった」って、見てくれると思う。常連さんって、ここが生活の一部になってる方も多いから。
店主(ご主人): やっぱり被害が増えているし、防ぐための手段があるのにまだ知られていない。もったいないと思いますよ。こういう活動は大事にしてほしい。

おわりに
インタビューを終え、店主ご夫妻、南さん3人で店頭に並んで写真を撮った。笑顔が絶えない30分間だった。
76年間、地域の人々の「お腹」を満たしてきた常盤仙食堂。これからは、地域の人々の「安心」を支える場所でもあってほしい──そんな思いを胸に、でんわんセンターのチームは亀有の街をあとにした。

でんわんセンターとは
でんわんセンターは、総務省が設けた相談窓口です。電話に関わる迷惑行為・特殊詐欺についての相談を無料で受け付けており、電話事業者の団体であるJUSA(一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会)が運営しています。「怪しい電話がかかってきた」「どこに相談すればいいかわからない」という方は、ぜひご連絡ください。
取材・文:JUSA / 掲載:でんわんセンターウェブサイト 特集記事



