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エグゼクティブ対談#4

でんわんセンターを支えた技術と情熱

― 電話の信頼を取り戻すために、私たちが挑んだこと ―

参加者自己紹介 ― 信頼を支える現場から

総務省の請負事業*として2025年6月に設立された「でんわんセンター(迷惑電話対策相談センター)」は、単なる相談窓口ではなく、社会と通信を結び直すための“新しい公共インフラ”としての使命を帯びています。本日は、その立ち上げに尽力された皆さまにお集まりいただきました。

でんわんセンターの事業主体は総務省で、私ども日本ユニファイド通信事業者協会(JUSA)が事業者として協力させていただいています。JUSAは、クラウド電話・クラウドPBX・SMS配信サービスなどを提供する通信事業者が加盟し、技術・制度・倫理の三本柱で通信の信頼を守る活動を続けてきました。総務省の「電話の安心」に対する思いと、JUSAの知見・実行力がひとつになってすすめられます。「電話が再び、安心と信頼の象徴となる社会を取り戻す」――その理念を具現化したのが、でんわんセンターです。

岡田:本日はお集まりいただきましてありがとうございます。まずは自己紹介をお願い致します。私、岡田はJUSA常務理事として政策部会を統括し、総務省さんの法制化議論への参加や、制度と現場をつなぐ役割を担当しております。今回のセンター構築では、総務省との協働のもと、通信業界が一体となって公共性と技術の両立を実現することを目指して全力で対応しました。無事に窓口が開始できたことはほっとしています。

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岡田 良平 一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会〔JUSA〕 常務理事・政策部会長/株式会社アセンド

 

1978年生まれ。大学卒業後にソフトウェア開発会社に入社しシステムエンジニアとして従事。その後転職を経て社内でクラウドPBX事業を立ち上げ、営業・技術・企画を統括して東証グロース市場の上場へ貢献。現在、JUSA常務理事・政策部会長として、業界の健全な発展と市場環境整備に尽力。株式会社アセンドでは営業の責任者として活躍。

邱:

三通の邱です。1990年代より一貫して音声通信基盤の提供に携わってきました。今回のプロジェクトでは、でんわんセンターの相談窓口に使用する音声通信インフラの提供を担当させていただきました。“止まらない通信”という言葉を、理念ではなく実装として形にすることが使命でした。

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株式会社三通 代表取締役 邱 利励(きゅう・りぃりぃ)
1969年上海生まれ。1999年に有限会社三通商事(現・株式会社三通)を設立。代表取締役として、25年以上にわたり通信・ネットワーク分野に携わり、海外の先進的なビジネスモデルや通信技術の知見をもとに事業を展開。一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会(JUSA)の監事も務めている。

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寺尾:ComDesign株式会社の寺尾です。今日の対談は楽しみにしておりました。よろしくお願いします。私たちComDesignは1990年代の創業以来ずっと音声通信に携わってきました。今はCTIといったコンタクトセンターシステムの専門企業として、陰ながら大手のコールセンターのシステムなどで通信を支えております。でんわんセンターのプロジェクトでは主にCTI・CRMや分析基盤の連携を担当しました。

寺尾憲二 株式会社ComDesign 代表取締役

1961年生まれ。日本電信電話公社(現在のNTT)に入社後、ソフトウェア開発エンジニアとして従事。その後ベンチャー企業を経て、2000年にコムデザイン社を設立。2008年にクラウド型CTIサービス「CT-e1/SaaS」の提供を開始。現在も代表を務めながら、現役として開発現場に立つ。

佐藤:同じくComDesignの佐藤です。私の立場はシステム側のプロジェクトのハブとして、当社の分野の社内プロジェクトのリードを行うとともに、JUSAのプロジェクト関係者の皆様とも実務設計や導入にかかる調整、運用テスト、相談員研修、セキュリティ運用体制を中心に担当しました。人とシステムが協調し、感情とデータが共存できるプラットフォームを目指しました。

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佐藤大助 株式会社ComDesign 社長室長
1967年生まれ。通信系IT運用保守ベンダーにて局舎交換機系の業務及び民間企業向け情報システムの運用業務等に従事。2018年より株式会社コムデザインにて、法務・マーケティング・管理部門・営業職に取組み、主に基幹事業の法令対応や社内の人事、総務、経理部門の統括管理業務を担当。

「電話に関することなら、どんな小さなことでも」――声を拾う文化の再構築

岡田:でんわんセンターが最も大切にしているのは、「電話に関することなら、どんな小さなことでも相談にのる」という姿勢です。日本人は「迷惑をかけたくない」と思うあまり、被害や違和感を自分の中に留めてしまう傾向があります。でんわんセンターは、“遠慮せずに声をあげられる社会”をつくる拠点です。どんな些細な違和感でも、言葉として外に出してもらう――その積み重ねこそが防犯であり、抑止なのです。

邱:「相談していいんだ」という安心感を与えるだけで、人は守られる。通信が匿名性を増した今だからこそ、“声を聴くことの価値”を社会に取り戻す意味がありますね。

寺尾:些細な通報がつながって、結果的に大規模な不正発信の発見につながることもある。市民の感覚が社会のセンサーになっている。でんわんセンターはまさに“国民の耳”のような存在になってほしいですね。

「電話のプロ」が応える安心感 ― 専門性が信頼を生む

岡田:でんわんセンターのもう一つの特長は、電話の専門家が応対する窓口であるということです。一般的な相談センターでは技術的背景の理解が難しい部分も、通信の構造を熟知したスタッフが的確に応じます。警察や他の相談センターからの質問にも対応しています。

佐藤:たとえば「+81表示が出るのはなぜか」「国際電話を装った国内発信の可能性はあるか」といった質問も少なくないようです。こうしたケースに、制度・技術の双方から明確に答えられるのがセンターの強みです。

 

寺尾:相談者の方は「専門の人にわかってもらえた」という体験を通じて安心できるでしょう。相談は情報収集であると同時に、信頼回復のプロセスでもあるんです。

邱:電話という古典的なインフラに、いま再び“人の専門知”が求められている。でんわんセンターは、人と技術の融合が生み出す信頼のモデルです。

聴くだけで終わらせない ― 分析と情報還元の仕組み

岡田:でんわんセンターは、相談を聴くだけでは終わりません。寄せられた情報を匿名化・データ化・分析し、有用な情報を警察・自治体・通信事業者団体や社会へ広く提供することで、社会的な抑止力として機能しています。

寺尾:同じ発信番号や手口が全国的に出ていれば、それは明確な警告信号です。センターは“受け皿”ではなく“社会の早期警戒網”ですね。

​邱:市民の声がダイレクトに行政や事業者の行動につながる。事業者の立場では、日々忙しい業務をこなしながらこういった情報収集を行っていくのは本当に大変です。でんわんセンターは「安全」や「健全な事業」に関する注意を周知してくれるわけですからメリットは大きいです。大変期待しています。JUSAの存在がその中核であることも意義深いですね。

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信頼を支えるETOC認証 ― 公共性の基盤

岡田:今回は、**ETOC(電話事業者認証機構)**の認証マークを取得した事業者であることを条件としました。ETOCは、総務省と警察庁と共に、通信事業者団体が作った認証の仕組みで、法令遵守・サービス品質・消費者保護やセキュリティなどを審査して認証マークを付与しています。これらにより事業者の信頼性を担保・可視化できるという仕組みです。信頼される通信の裏には、必ず“守る者の責任”がある。このETOC認証は、その責任の証明でもあります。ETOCは事業者間取引の信頼性確認だけでなく、利用者側からみた事業者の信頼性を担保するものとして期待されています。「事業者はETOCマークを持っていることが当然」という仕組みだと思います。

邱:ETOCは非常に良い取り組みだと思います。私共の普段の業務の中で、取引先事業者が法令遵守しているかどうかを確認するのは大変です。法令遵守していない事業者、違法行為を行っている事業者、もしくは反社系の方々と取引していたら弊社のコンプライアンス上重大な問題です。ETOCマークを持っていれば取引して大丈夫、という流れになってくることで、こういった懸念がだいぶ払拭されるでしょう。利用者の皆さんにも調達の際にはETOCマークを見て選定するように伝えています。

私共のお客様や取引相手の認証取得には、技術だけでなく、企業としての倫理と透明性が問われます。でんわんセンターが“信頼で支えられた窓口”であることを示す重要な要素ですね。

止まらない通信を支える ― 地理的分散と多重防御の設計思想

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岡田:でんわんセンターの技術基盤は、まさに“多層防御の集合体”です。単なるシステム冗長化ではなく、東京と大阪などの地理的分散構成。また独立した建物・電力系統・回線キャリア・データセンター環境を持ち、確実な冗長化を実現しています。この構成により、災害・停電・通信断・設備障害のいずれが起きても、事業は継続する。“止まらない通信”を理念ではなく体現しました。

 

邱:今回ネットワーク側に要求された要求仕様は、他のプロジェクトと比較しても規模の割に非常に高かったです。今回要求された構成は、表面上はシンプルに見えますが、多くの事業者にとって大きなハードルがあると思います。要求仕様書を見て諦めた事業者も多かったはずです。ずいぶんマニアックな人が仕様書を書いたんだろうなと思いました(笑)。まぁ誰が書いたのか、なんとなくわかりますけどね(笑)。系の分散、ビルの物理的冗長性、複数キャリアによる回線の二重化、IPルート制御、電源設備の多重系化などなど、実際にはもっとありましたよ。手前味噌でしたが、直近10年間、弊社はまさにシステムの堅牢性を目標にすすめてきたため、これらはクリアすることができました。実際にこの点を評価していただいているお客様は多いです。多くの法人にとってBCPは重要ですね。

寺尾:私も邱さんと同じ所感でした。この規模のセンターで、東日本大震災級の発災時でも相談センターの機能が失わないようにBCP要求することには驚きました。でも不安な市民に寄り添うということを考えれば、この要求仕様は正しいですね。いずれも「止めない」「ずらさない」「失わない」が原則。呼制御だけでなく、分析システムやインターフェイス、同時に**セキュリティ認証基準(ISO27001)**に準拠させるなど弊社も普段の努力が活きています。

 

岡田:こうした地理的分散や多層防御の設計は、単なる危機管理ではありません。それ自体が“信頼の象徴”です。どんな事態が起きても、声を受け止め続ける。でんわんセンターをJUSAが預かる理由でもあります。

官民協働で生まれた「通信のセーフティネット」

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岡田:でんわんセンターは、総務省・JUSAが連携して生み出した官民協働のモデルです。制度と技術、行政と民間の垣根を越えて、社会的信頼を支える新しい枠組みを築く取り組みです。我々は運用する立場であるものの、使命を全うし効果を最大化するために、今後も努力していく必要があります。総務省さんだけでなく、警察庁さんや都道府県警察、自治体とのコミュニケーションを図っていきます。

 

邱:行政が理念を示し、JUSAが業界に呼びかけ、事業者が実装する――。その三者が揺るぎない信頼関係で結ばれていたことは素晴らしいですね。

寺尾:従来の委託関係を超えて、**“共に公共を担うパートナーシップ”**が形成された。技術の裏に、思想があった。そのことは私だけでなく弊社全体の士気を支えていました。私は技術者ですから現場を見ることが大好きでして、今回も参加させていただきました。楽しく仕事ができました。

現場の声 ― 「聴く」という行為が社会を変える

岡田:運用が始まってから、本当に色々な相談がくるそうです。相談員の方が「不安で泣きそうな相談者が、電話を切るときに相談者の声が明るくなった」と話していました。不安が言葉になった瞬間、人は安心できる。その小さな変化こそが、社会の安全を形づくっています。でんわんセンターは我々事業者に対しても電話の重要性を教えてくれます。

邱:“話すことで守られる”という構造を、通信が支えている。技術の究極の目的は、安心をつくることにあると感じますね。

寺尾:分析すると、「ありがとう」「助かりました」という言葉が多いそうです。AIでは測れない、人と人との信頼の温度ですね。

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未来への展望 ― AIが支える「聴く力」の継承

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岡田:今後はAIを活用し、相談内容の文脈や感情を解析したり、地域別・時間別のリスク兆候を把握するなどの様々な分析に挑戦していきます。技術が“聴く力”を支援し、社会の安全を先取りする時代が来るでしょう。

寺尾:AIは人を代替するのではなく、人の判断を深めるための相棒です。相談員がより多くの人を支えられるよう、技術を味方につけていきたいですね。我々の技術開発も止めるわけにはいきません。

邱:通信は変化しても、人と人を結ぶ本質は変わりません。電話が“信頼の道具”であり続けるように、業界としてその責任を果たしていきたいです。

結び ― 電話の未来を信頼のもとに

岡田:でんわんセンターは、聴く・分析する・社会に返すという三つの軸を持つ社会的装置です。個々の相談が社会全体の防御力を高め、信頼を再生する。私たちJUSAは、これを単発の取り組みではなく、通信社会全体の基盤強化として発展させていきます。関係者の皆様と共に、電話という古くて新しいメディアを、人の温もりと技術の精度で再び輝かせたい。それが、私たちの使命です。引き続きご協力をよろしくお願い致します。

本日はありがとうございました。

写真左から

岡田 良平(一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会〔JUSA〕 常務理事・政策部会長/株式会社アセンド)

邱 利励(株式会社三通 代表取締役)

寺尾 憲二(株式会社ComDesign 代表取締役)

佐藤 大助(株式会社ComDesign 社長室長)

*総務省令和7年請負事業(以下参考)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban18_01000255.html

https://www.soumu.go.jp/photo_gallery/02koho03_03005271.html

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